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2014年10月26日 (日)

ビルマ(ミャンマー)・ティラワSEZ…適切な移転・補償措置を求めて「不法侵入罪」? 移転拒否をした住民への人権侵害と差し迫る強制立ち退き


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フェーズ1区域にたった一軒残された家
 
「警察に不法侵入の容疑をかけられてからも、ここ(ティラワ経済特別区開発事業フェーズ1区域内)でまだ暮らしている。けれど、精神的に不安感は増しているよ。自分だけが逮捕されるのならいいけれど、家族まで……。」
 
10月半ば、チャウウィンさんの家を訪ねた。彼は、いつものように真っ直ぐに前を向いて淡々と話し始めたが、隣に座っている奥さんやまだ幼い娘さんたちに目をやりながら、視線を落とした。
 
9月26日、彼は、ヤンゴン管区タンリン郡警察に出頭を命ぜられた。奥さんらと一緒に警察署に出向くと、ミャンマー刑法第447条の下、「不法侵入罪」の容疑をかけられ、一時逮捕されてしまった。
(この件に関する詳細は、こちら
 
彼の家族は、日本が官民を挙げて進めているビルマ・ティラワ経済特別区(SEZ)開発事業・フェーズ1区域(400ヘクタール)のなかに現在も住み続けている最後の1家族だ。補償金の一部を受け取り、用意された移転地で新しい家を建て始めたが、補償金が家を建てるのに十分でなく、また、彼の家計を支えてきた乳牛の飼育を続ける場所も用意されないことに気付き、元の場所で生活を続けることに決めた。
 

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家の裏手にある台所
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家の周りに置かれた薪
 
「ほらね。移転地と比べたら、全然広いだろう?」チャウウィンさんは、一軒家の裏手に別途建ててある台所のほうを案内しながら、そう言った。その周りには、炊事用の薪が積んであり、水汲み場も数メートル離れたところにある。そして、何よりも彼の牛を放し飼いにできる広々としたスペースが家の周りに広がっている。
 
昨年、すでに移転した他の67世帯は、受け取った補償金をすでに使い果たし、移転地で苦しい生活を送っている家族も多い。現に30家族は、すでに移転地を後にし、生活の糧を求めて他の場所へ出て行ってしまった。移転地に残っている37家族の多くも、どんどん膨らんでいく借金を抱えながら、何とか生活を続けているのが現状だ。
 
こうした深刻な問題を抱え、住民3名が6月に国際協力機構(JICA)へ異議申立てを行なった。チャウウィンさんもその申立人の一人として名を連ねており、彼らの申立てに関する調査結果が11月初めに出てくるのを待っている最中だったが、9月末に一時逮捕の事態となってしまった。
 
そもそも、この事業を進めているビルマ政府、そして、その政府を支援しているJICAは、国際水準に則って移転を進めることを公言してきた。しかし、土地補償や代替の農地もなく、約束された雇用創出も実現していない。
 
チャウウィンさんが、移転地に留まらず、元の場所に戻った理由は、ただ一つ。日々の生活を続けるためだ。そして、彼のその判断は、今の移転地の状況を見てみれば、非常に納得のいくものでもある。彼は日々の生活を元の場所で続けながら、政府・JICAが公言・約束した国際水準の適切な移転・補償措置を求めているだけだ。それが「不法侵入」なのか?
 
警「家を壊して、あそこを出ると言えば、この容疑は無しにする。」
 
チ「自分はそうはしません。」
 
警「いつからここに住んでいるのか。」
 
チ「先祖代々です。」
 
警「配偶者はいつからここに住んでいるのか。」
 
チ「同じく、先祖代々です。」
 
警「補償金を一部もらったのに、なぜ出ないのか。」
 
チ「補償金をもらいたかったわけではありません。政府の担当者が、上の役人に報告すると言うので、(怖くなり)補償金を受け取ったんです。」
 
警「相手にしているのが政府だということは、わかっているのか。刑務所に入ることになるぞ。」
 
チ「……(沈黙)」
 
保証人2名の下、同日夜にチャウウィンさんらは保釈されたが、一時逮捕されて警察署にいる間、こうした問答があったという。
 
もちろん、家族の日々の生活がかかっているのだから、簡単に折れるわけにはいかない。それでも、警察の脅しに屈しなかった彼の意思の強さは並大抵ではない。
 
10月24日、刑法の手続きによれば、この日(容疑をかけられた日から28日以内)までに、警察が送検し、裁判所から初公判の日がチャウウィンさんに通知されるはずだった。幸い、その日までに通知は届いておらず、このまま起訴されずに終わる可能性も出てきている。
 

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家から見える土地造成作業中のブルドーザー
 
しかし、彼の家を訪ねると、もう一つの懸案がすぐ目の前に迫っていることに焦りを感じずにはいられない。南側から始まっていたフェーズ1区域の土地造成作業が、北側に位置する彼の家から250メートル地点まで、どんどん近づいてきているのだ。彼の家からも作業しているブルドーザーが目視できる範囲にあり、あと数ヶ月、いや、あと何日だろうか……。彼の家があのブルドーザーで強制的に取り壊される日が来るかもしれない。でも、今のまま、移転地での生活を余儀なくされれば、牛の飼育から得られる収入がなくなるなど、大幅な生活悪化につながるのは目に見えている。
 
チャウウィンさんは、腰に手を当て、シャンと背筋を伸ばし、南のほうを見据えていた。「誰も助けは来なくていい。このままだったら、死んでもいいから、自分はこの家を出ない。」
正当な権利を求めているのに、あまりにも理不尽ではないか。やっと軍事政権下から解き放たれたと思ったのに、日本の進める開発事業一つで、彼の家族は経験しなくてもよい苦境に立たされている。
 
いま、私たちにできること――土地造成作業が彼の家に達する前に、移転先で同様の生活水準を維持するための適切な補償・生計回復措置を一刻も早く講じるよう、JICAに働きかけていくことしかないだろうか。
 
本当は、適切な対応がとられるまで、彼の家族と一緒に家に寝泊りしたい思いだ。それができないもどかしさと、自分たちの小ささを再認識させられる。それでも、JICAにあれこれと働きかけていくことくらいは、自分が最低限せねばならないことだ。
 
(あばんて記)

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