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2015年8月18日 (火)

【コラム】 人びとの物語で読むメコン~第二回 新天地を求めて 

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(アカ族の村より眼下に北タイの山なみを望む)

日本語訳を求める声にこたえて、英文ブックレット『木々と獣と塩と精霊~タイ・ラオス・カンボジアの農村の環境と人びとの暮らし』(原題:
Plants, animals, salt and spirits: How people live with and talk about the environment in rural Cambodia, Laos and Thailand、以下、『人びとの物語』と略称)に掲載した物語を、仮訳とコメントで紹介するコラムです。


第二回目も、北タイ・アカ族から聞いたお話、「新天地を求めて」。第一回目の「モフとモニ」の続きです。語り手も、同じアムイ・チェムイさん。『人びとの物語』7475ページに掲載してあります(注1)。

モフとモニの兄弟は、行方不明になった父親を捜しに旅に出ます。兄のモフは金の船を漕いで川上へ、一方、弟のモニは銀の船を漕いで川下に向かいます。モニは旅先で、人喰い巨人の一家を退治して村人を救い、さらには、亡くなったお姫さまを生きかえらせて、王様からたいへん感謝されます。王様は、お礼に、金銀財宝をわたそうとするのですが、モニは、神様のお告げにしたがってこの申し出を断り、代わりに一羽のおんどりを授かります。そして、「このおんどりが鳴くところが、神様のご意志にかなう場所。そこに、ぼくは住みかを築きます」と宣言して、旅を続けます(注2)。

**********

新天地を求めて

モニは、水の豊かな、景色の美しい土地にたどり着きました。びんろうじゅの木が生い茂り、けものたちの鳴き声がそこいら中から聞こえました。まるで「今すぐ、ここにお住みなさい」と言わんばかりのところでした。モニは、「こんなところに住みかを築きたいなぁ」と、心のそこから思いました。それで、おんどりが鳴いてくれるだろうと思って、かたわらの木の枝に乗せてやりました。ところが、おんどりはうんともすんとも言いません。

モニは、ひとりごちました。「ここに住みかを築くのは、神様のご意思ではないようだ」。そして、さらに旅を続けました。それから七日と七晩、歩き続けたため、モニはすっかり疲れてしまいました。そこで、道ばたに腰をおろして休むことにしました。あたりを見まわすと、小さな石や大きな岩がごろごろしていて、目の前には、岩だらけで険しい山がそびえています。畑になるようなところにも見あたりません。ところが、ここで、おんどりが鳴きだしたのです。

モニは、ふたたび、ひとりごちました。「ここが神様のご意思にかなう場所なんだ」。そして、そこにとどまることにしました。すると、おんどりは、また鳴きだしました。「ココケッコー、すくわなくても水が飲める。植えなくてもお米がとれる。ココケッコー」。おんどりはさらに三度鳴いてから、こう告げました。「険しい山は平地に。すべてはモニの望むままに」。

おんどりのお告げが止むと、険しい山は平地になりました。モニがまじないを唱えると、金銀財宝が必要なだけ手に入りました。

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「新天地を求めて」は、環境や資源に恵まれているだけでなく、なにかが加味されないと人の住みかとして適切ではない、という考え方を伝える物語として『人びとの物語』に収録しました。

アカ族は、他の民族と比べて、さまざまな戒律を大切にするようです(注3)。村を建設するにあたっても、土地の選定や建造物の配置にまつわる細かな決まりがあって、アカ族の長老は、そうした知識をきちんと暗記して、次の世代に伝える役割を担っています。

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(アカ族の納豆「アチュジュム」。発酵させた大豆に、レモングラス、しょうが、塩、とうがらしなどを混ぜて食べる)

この物語で「なにか」を告げるのはおんどりですが、「鳥が人間になにかを告げる」というのは、民話でよく遭遇する場面のように思えます。第四話として予定している「ブランコの起源」でも、すずめが神様に告げ口をする場面がありますし、前回の「モフとモニ」で兄弟が鳥の親子の姿を見て改心した場面は、一種の派生形と考えられなくもありません。

鳥は空を飛ぶことで、人智のおよばぬ世界と人間界とを行き来できそうでもありますし、渡り鳥は、季節の到来をいち早く人間に告げてくれているようでもあります。また、一年三百六十五日、毎日、朝に夕に鳴きたてることから、よほど何かを告げようとしているのだと、私たちの祖先が考えたとしても不思議ではありません。

柳田国男にも、「このごろの野鳥は人さえ見ればびくびくするが、以前は相対して朝から晩まで、同じ文句と挙動を繰り返したので、小さな児はもとより、年取った人々の想像にも、何かよくよく言わずにはいられぬ身の上話があるかのように、奇異なる印象を与えたのである。鳥の言葉に実は深い意味とかしこい智恵があるのだということは、聴耳頭巾(ききみみずきん)や童子丸の昔話、さては瓜子姫カチカチ山などにも既に説かれている」という指摘があります(注4)。



1)『人びとの物語』は、以下のサイトで閲覧可能。 http://www.mekongwatch.org/PDF/Booklet_PeopleStory.pdf

2)『アカ族民話集』(ピチャイ・ビヤンレー訳、発行年不明、アカ農業・教育開発プロジェクト発行、
143ページ)では、モフとモニの物語を十七話に分けてタイ語で紹介している。


3)コーネリア・アン・カメリア(1990)「棄てられた籠~北タイ・アカ族キリスト教徒による伝統の再解釈」『東南アジア研究ジャーナル』27号(原題:Kammerer, Cornelia Ann. 1996. Discarding the basket: The reinterpretation of tradition by Akha Christians of Northern Thailand. Journal of Southeast Asian Studies 27, pp. 320-333)、325326ページ

)柳田國男(1976)『口承文芸史考』講談社学術文庫、155156ページ

(こうもり記)

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