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2015年8月12日 (水)

【コラム】 人びとの物語で読むメコン~第一回 モフとモニ

昨年度、メコン・ウォッチでは、タイ・ラオス・カンボジア三か国の農村で伝説や民話を集め、英語のブックレット『木々と獣と塩と精霊~タイ・ラオス・カンボジアの農村の環境と人びとの暮らし』(原題:Plants, animals, salt and spirits: How people live with and talk about the environment in rural Cambodia, Laos and Thailand、以下では『人びとの物語』と略称)を発行しました。日本語訳を希望する声が多いので、このブログで仮訳とコメントを連載します。

第一話は、北タイ・アカ族に伝わる『モフとモニ』のお話。『人びとの物語』の7071ページに掲載してあります。『人びとの物語』は、以下のサイトで閲覧できます。
 http://www.mekongwatch.org/PDF/Booklet_PeopleStory.pdf


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モフとモニ

むかしむかし、ふたりの兄弟がいました。兄の名をモフ、弟はモニと云いました。ふたりは老いた父親と、壊れかけた家に住んでいました。老いた父親はひとりでは何にもできず、ごはんを食べるときばかりか、用を足すときも、モフとモニが手をかさなければなりませんでした。

ある日、モフとモニは話し合いました。「おやじは俺たちを生んでくれたんだし、殺すわけにもいかない。でも、めんどうをみるのはもう限界だ」。話合いの結果、父親を売って、その金で家族を養おうということで話がまとまりました。

モフとモニはさっそく担架を組みたてました。そして、その担架に父親をのせ、家を出ました。しばらく歩くと、疲れてのどがかわいたので、父親をがじゅまるの木陰におろして、飲み水をさがしに行きました。もどってきて、がじゅまるの木陰で休んでいると、しっぽのながい鳥が飛んできて、巣のひなたちに餌をやる姿が見えました。

その鳥の姿を指して、父親が言いました。「モフとモニや、おとうさんはたしかに老いた。自分のこともできないし、お前らもめんどうみきれないと言う。それで売られていくんだが、おなかを痛めたわが子に餌をやるあの鳥をご覧。大きくなるまでめんどうみてやるんだろうなぁ」。

父親のことばを聞いて、モフとモニは思いました。「そういえば、俺たちがガキだったころ、おやじはよくめんどうみてくれたよなぁ。あの鳥みたいにごはんも食べさせてくれたし」。ふたりは父親がとっても不憫になり、家に連れてかえることにしました。

それからというもの、ふたりは父親のめんどうをいっしょうけんめいみるようになりました。ごはんや魚をふるまって、あたたかいお風呂に入れて体も洗ってやり、父親は家の中で不自由なく暮らせるようになりました。

年も月日が経ちました。ある日、父親はモフとモニに向かって言いました。「モフとモニや、おとうさんは川で水浴びがしたいんじゃ。爪がのびすぎて、切ってやらにゃならん」。ふたりは言われたとおり、父親を川につれて行きました。そして、父親を桟橋のところに残して、仕事をしに家にもどりました。

そろそろ水浴びも終わっただろうと思って、モフとモニは父親をむかえに桟橋のところに行ってみました。すると、なんと父親がいなくなっているのです。ふたりはびっくりしました。どんなにいっしょうけんめい探しても、姿が見えません。ふたりは悲しい気持ちでいっぱいになりました。

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アカ族のアムイ・チェムイさん(64才)が語ってくれたこの物語は、モフとモニの兄弟をめぐる長編の冒頭の一節です。

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(アムイ・チェムイさん)


「親に育ててもらった恩を忘れるな」という教えを伝える物語ですが、『人びとの物語』に収めた理由は、父親が息子たちを改心させる場面で、親鳥と雛をめぐる「作中物語」を語っているからでもあります。父親がしてみせたように、物語には、伝えたいメッセージを直接表現する代わりに、物語に託すことで、聞く者の心を動かす力があります。したがって「モフとモニ」は、物語の力を再評価するための物語とも言えます。

三国志に登場する「豆を煮るに萁(まめがら)をたく」のエピソードでも、魏の曹植がこうした物語の効力を使って危機を脱します(注1)。物語によせて伝える方が、相手に理解してもらいやすいし、こちらも話しやすいといった場面は、私たちの生活の中でも多々あるでしょう。民俗学者の宮本常一にならえば、こういう物語の効用を「ことよせ」と呼ぶことができます(注2)。

「モフとモニ」は、一種の姥捨て伝説と見ることもできます。ただ、姥捨て伝説の原型は、老人の知恵によって国難が回避できたという説話にあり、いったん捨てられようとした老人が連れ戻されるのは日本的モチーフであるといった興味深い指摘もあります。(注3)また、「モフとモニ」の場合、後日談として、せっかく生還した父親が失踪してしまい、これがモフとモニの冒険の旅の幕開けを構成しています。

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(アカ族の昼食)



1)「豆を、その豆のからを燃やして煮る」の意味。兄弟などが互いに傷つけあうことのたとえ。曹植は、兄の文帝から「七歩歩む間に詩を詠まなければ罰する」と言われ、「まめがらは釜底に在って燃え、豆は釜中に在って泣く」と、兄弟の不和を豆とまめがらにたとえた即興詩を詠み、兄の改心をうながしたと云われる。

2)宮本常一(1984)『忘れられた日本人』岩波文庫、20ページ

3)網野善彦・塚本学・坪井洋文・宮田登(2015)『列島文化再考』ちくま学芸文庫、207208ページ

(こうもり記)

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