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2016年4月 3日 (日)

【コラム】 人びとの物語で読むメコン~第六話 虱まみれのルイあんちゃん

英文ブックレット『人びとの物語』を日本語訳で紹介するコラムです。第六回目は前回同様、ラオス・クム民族のお話から、「虱まみれのルイあんちゃん」を取りあげます。ビエンチャン県にあるナサオナン村のシエンビライ・ウライトンさんからうかがいました。『人びとの物語』42~43頁に掲載してあります。[1]

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虱まみれのルイあんちゃん

むかし、あるところに、ひとりの女が住んでおりました。女には息子がひとりおりましたが、夫のすがたは見えませんでした。息子はたいへんな怠けもので、母親にたよりきったまま日々の生活を送っていました。

そんなある日、女が亡くなりました。息子は天涯孤独になってしまったのです。お金もなく、からだも垢だらけになりました。村人たちはこの息子を、「虱まみれのルイあんちゃん」と呼ぶようになりました。

ルイあんちゃんは、村の嫌われものでした。村人たちに、村から出て、近よらないように言われました。それで、ルイあんちゃんは村の近くに小屋を建て、そこで生活するようになりました。生計手段はもっぱら陸稲(おかぼ)作りです。

村人はだれひとりとしてルイあんちゃんに近づこうとしませんでした。からだじゅう垢だらけで、まさに虱まみれだったからです。みんなから馬鹿にされ、のけ者にされました。村の行事などでも、いつも、ひとりぼっちでご飯を食べていました。

ある時、郡長が村に畑の種まきを命じ、ルイあんちゃんも作業にかりだされました。畑には白アリの巣があちこちにあり、地面はかたく、種をまく穴を掘るにもひと苦労でした。ルイあんちゃんは、白アリの巣がひときわたくさんあるところに種をまくように言われました。このことを知った郡長の娘は、ルイあんちゃんに同情しました。それでルイあんちゃんに手をかそうとも思いましたが、やはり近づくのははばかられ、とおくからようすを見ていました。

白アリの巣があるところに穴を掘るのはたいへんでした。そこで、ルイあんちゃんは巣のまわりに種をまいていましたが、そのうち巣がひとつくずれて、中から金銀の財宝がすがたをあらわしました。なんという幸運でしょう。ルイあんちゃんはさっそく財宝を郡長の娘に見せようと思って、声をかけました。でも、娘は信用してくれません。近づこうとしないのです。ルイあんちゃんは言いました。「ぼくに近づきたくないならいいよ。むこうに行ってるから、ここに来て見てごらん。」

娘がルイあんちゃんの立っていたところに来て見てみると、そこには、金銀の財宝がよこたわっていました。ふたりは、お昼休みも時間にまぎれて、財宝をそっくりルイあんちゃんの小屋に隠してしまいました。

種まきの作業が終わりました。ところが、郡長の娘は自分の家に戻ろうとしません。娘はルイあんちゃんの小屋に泊まることにしたのです。娘が帰ってこないと聞いて、郡長はたいそう驚きました。でも、娘の思いどおりにするしかありませんでした。

郡長の娘はルイあんちゃんの髪を切って、お風呂に入れ、身につけているものもすべて洗濯してやりました。それから二十日間、娘はルイあんちゃんの小屋に泊まり、その後、ようやく郡長のもとに戻りました。

家に戻った娘は、郡長に言いました。「おとうさん、バナナが食べたくなったら、ルイあんちゃんの小屋の屋根にあがって取るといいわよ。」でも、郡長には娘のことばの意味が分からず、はじめは無視していました。

七日目になってようやく、郡長は娘の言うことを無視できなくなり、ルイあんちゃんの小屋に出かけて行きました。そして、椅子を持ってくると、それを踏み台にして屋根にあがりました。そうして下を見ると、金銀の財宝が目にとびこんできたのです。郡長は屋根からおりると椅子をきれいにふいて、なにくわぬ顔で家に戻って行きました。

Kmhmu_jar_of_alcoholこの一件があってからというもの、村人たちはルイあんちゃんの種まきを手伝うようになりました。作業が終わって夕ごはんの時間になると、ルイあんちゃんはみんなにお米でつくった酒「ラオハイ」をふるまいました。村人たちは、ルイあんちゃんの小屋が不潔だと思って、自前のストローを持ちよってきました。ところが、酒樽には純金製のストローがさしてあり、村人たちはおどろくと同時に、恥ずかしい気持ちになりました。それで、持ちよったストローを小屋のそとに捨ててしまいました。

郡長は、娘とルイあんちゃんの結婚をみとめました。ふたりはしあわせに暮らしました。いまでも地面に薪(まき)がころがっていることがありますが、それは村人たちが捨てたラオハイ用のストローのなれのはてなのです。

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賤(いや)しい出自のルイあんちゃんが幸運にめぐまれ、高貴な人の目にふれ、やがてはしあわせな一生をおくれるようになる物語です。ルイあんちゃんは、特別な知恵をもっていたわけでもなく、なにかにいのちを賭したわけでもなく、かといって、突然、生来の怠けぐせをあらためて勤勉になったようでもありません。もし、ルイあんちゃんの側に、幸運を引きつける理由があったとすれば、自らの不幸や村人の扱いに一言たりとも不満をもらすでもなく、金銀財宝に一瞬たりとも目がくらむわけでもなく、たんたんと生きてみせる「純朴さ」ということなのかも知れません。

一方、村人は、ルイあんちゃんを嫌いながらも、完全に放逐はせず、村のはずれに住まわせていました。逆に、行事や作業に参加させながら、けっして交わろうとはしませんでした。それが、最後には、ルイあんちゃんの寛容さに接して、自らの振るまいを恥じることになります。伝統的な村では、出自にしろ、障害にしろ、言動にしろ、さまざまな形で異質な仲間と折りあいをつけながら共同生活をいとなむ必要があったものを思われます。この物語には、そういうリアリティが反映しているように思えます。



[1]『人々の物語』の原題は、Plants, animals, salt and spirits: How people live with and talk about the environment in rural Cambodia, Laos and Thailand(『木々と獣と塩と精霊~タイ・ラオス・カンボジアの農村の環境と人びとの暮らし』、メコン・ウォッチ発行、2015年)。以下で閲覧可能 http://www.mekongwatch.org/PDF/Booklet_PeopleStory.pdf

(こうもり記)

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