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2015年4月13日 (月)

【ニュース】 国会審議 「開発協力大綱の下、官民連携推進で環境社会問題は軽視されない?」 ― ビルマ・ティラワ経済特区の移転問題も事例に

 

4月6日、参議院 「政府開発援助(ODA)等に関する特別委員会」で、これまでのODA大綱の改定という形で、今年2月に新しく制定された「開発協力大綱」に関する議論がなされました。新大綱については見直しの段階から、国益重視のスタンス、また、ODAの軍事的用途への流用の可能性などを懸念する多くの声が市民からあげられていましたが、当日の委員会でも、こうした点が審議されています。

録画は、以下のサイトで閲覧可能です。
http://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/index.php

ここでは、当日の議論のなかでも、民主党の石橋通宏議員、および、共産党の辰巳孝太郎議員が、新大綱が強調している「官民連携の推進」によって、企業利益の優先の下、地元での環境社会配慮の軽視や貧困化につながるのではないかと外務省・国際協力機構(JICA)に問い質している部分について、上記録画の視聴記録を紹介します。

現在、まさに日本が官民連携のモデルとして進めているビルマ・ティラワ経済特区開発で、影響住民が貧困化している実態、また、住民がJICAに異議申立てをした制度の問題点についても指摘がなされています。(ティラワ事業に関する詳細はこちら  http://www.mekongwatch.org/report/burma/thilawa.html 


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参議院 政府開発援助等に関する特別委員会
2015年4月6日


石橋通宏 議員(民主党・新緑風会)
2:58:07 ~ 3:01:45


石橋議員:
・ 一点、JICAに関わる点をお伺いしたい。今回の新しい大綱の下で、国民の皆さんが懸念されていることの一つが、国益の重視、経済成長への重視と一部で受け止められてしまっている。そうすると、経済成長や企業の進出ということになると、これまでJICAに作ってきていただいた環境社会配慮ガイドライン、この扱いが新大綱のなかでどうなっていくのかということについて、特にNGO、NPOの皆さんが非常に懸念されている。ガイドラインが蔑ろにされてしまうのではないか、つまり、経済成長や企業の進出にとっては、この環境社会配慮ガイドラインというのは、ある意味、邪魔になるのではないか。なので、無視されてしまうのではないかということをすごく懸念されている。確認させていただくが、新大綱の下で、この環境社会配慮ガイドラインが蔑ろにされたり、弱められたりということは一切ない、むしろ、今後ともしっかりと強化・発展させていく覚悟であるということでよいか。


JICA植澤利次 理事:
・ まず、新しい開発協力大綱においても、すでに先生ご指摘のように、貧困問題、あるいは、持続可能な開発が大事だということが位置づけられているので、それを実現するために、JICAのガイドラインを今まで以上にしっかりと遵守していくことは重要であると認識している。
・ さらに、新大綱のなかでも、環境問題等についてはしっかりとやるべしということは、実施上の原則でも明記されているので、その線を逸脱することのないように不断の努力を行なっていく。
・ さらに、世界銀行等とも綿密に情報収集・協議を進めながら、このガイドラインが国際的なスタンダードになるよう、更なる向上に向け、努力を繰り返す。
・ また、先生よりご指導いただいているミャンマーの事例で、私どもたくさんのことを学んだ。これまでの経験を踏まえ、相手国等による住民との早期対話を促進するようなことにJICAとしても一層邁進し、丁寧な環境社会配慮を行なっていきたい。一言で申し上げれば、私ども、このガイドラインを遵守することに決意をもって臨む所存。


石橋議員:
・ 今、触れていただいた異議申立手続きは、また別の機会にしっかりと議論させていただきたい。
・ 最後に外務大臣に。今申し上げたJICAの環境社会配慮ガイドライン、今決意を述べていただいて、これからしっかりやっていただく、もちろんのことだということでお話をいただいた。外務大臣としても、このJICAの環境社会配慮ガイドライン、そして、異議申立手続き等々、より手続きがしっかりと透明性ある形で強化されていく、外務大臣としての決意を最後にお伺いしたい。


岸田 外務大臣:
・ 今後とも、持続可能な開発を実現するために、同ガイドラインの遵守を確保し、環境社会への影響に不断に配慮した開発協力、引き続き行なっていく所存。
・ そして、このことがまさに、新大綱が重点課題として掲げる質の高い成長を実現することにつながると考える。




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辰巳孝太郎 議員 (日本共産党)
3:30:10 ~ 3:36:29


辰巳議員:
・ 政府がインフラ支援のモデルケースとして位置づけ、2013年から官民を挙げて進めているミャンマーのティラワ開発事業について、先ほど、同僚議員からもあったが、地域住民が貧困に陥っていると訴えている件について、お聞きしたい。
・ 昨年6月、住民3名が来日し、JICA環境社会配慮ガイドラインに基づき、異議申し立てを行なった。申し立ての主な内容は、早期開発区域の400ha事業に伴い、移転を強いられた81世帯や周辺の住民が被る可能性のある実質的な損害について、強制的な追い出し、生計手段の喪失、生活の窮乏化、教育機会の喪失などをあげている。
・ 企業の利益を優先し、住民を貧困にするような進め方は、私は改めるべきではないかと思うが、大臣のご所見を伺う。


岸田 外務大臣:
・ ティラワ経済特区事業における住民移転だが、住民の意思等に十分な配慮を行なった適切な措置が確保されることが重要であるという認識は大切であると思っている。
・ そして、この住民移転により住民の生活水準が悪化しないよう努めることは、JICA環境社会配慮ガイドラインに定められており、これまでも同ガイドラインに沿った対応をミャンマー政府に申し入れ、そして、JICAを通じては技術支援を行なっている。
・ 基本的な対応は相手国政府ではあるが、我が国としても、今申し上げた観点から、しっかりとミャンマー政府に申し入れを行ない、技術支援を行なっていきたいと考えている。
・ そして、ご指摘の開発の次期開発区域における住民移転についても、今後、ミャンマー政府が住民移転に向けた具体的な準備を行なうにあたり、対象住民と丁寧に対話を行ないながら、適切に生計回復支援等を策定するよう、日本として必要な支援、働きかけを行なっていきたいと考えている。


辰巳議員:
・ 丁寧な支援ということだが、しかし、この異議申し立てでは、さらに残りの2,000haの開発に伴って、1055世帯が移転に直面する。より多くの人びとが同様の影響を被る脅威にさらされているとしており、大規模な住民移転にあたり、住民が困窮してはならないと思う。
・ ガイドラインは遵守されているということだと思うが、調査の報告書に対し、2014年12月に当事者からの意見書も、さらに提出された。内容を見てみると、たとえば、この審査をした役はJICAの専門家や通訳と現地調査を行なっており、中立性がないのではないかと。村びとの不信の原因になっているのではないか。もっと詳細で正確な情報を聴取することができたのではないかということも述べている。
・ また、当事者の意見書に添えられた国際NGO、人権のための医師団が行なった調査報告書では、別の調査だが、住民が移転しない場合には拘禁すると住民を脅しており、移転のプロセスは国際ガイドラインを遵守していないと指摘する報告をしている。
・ また、JICAのガイドラインの作成にも携わったNGO団体メコン・ウォッチからの意見では、申立人が審査役から受領した通知や報告書が、申立人が理解のできない言語、つまり、英語で情報提供されたというところも指摘されている。JICAの意思決定前の遵守状況を検証して、結論を論じるべきではなかったのか。JICAの異議申立制度自体の独立性に疑問を抱かざるを得ない調査結果であると、ここまで指摘しているが、大臣はこの結果をどう受け止められるか。


岸田 外務大臣:
・ まず、こうした事業において、JICAの環境社会配慮ガイドラインに沿った対応、これは大変重要であり、まずは、ミャンマー政府にこうしたガイドラインを尊重すること、こうした事業における国際的な水準について、しっかり理解してもらうべく努力をしていかなければならないと考える。
・ そして、ミャンマー政府をしっかりと支援していかなければならないが、その際の対応として、やはり、地元の住民の方々の理解、協力、これを欠くことはできない。我が国の対応としても、住民の皆さんの理解という観点からも、できるだけ丁寧にあるべき対応を考えていかなくてはならないと考える。


辰巳議員:
・ ミャンマー政府の問題というよりも、JICAの異議申立制度自体の問題を指摘されているわけなので、ここは重く受け止めるべきだと言わなければならない。
・ 我が国にとっての重要性を過度に優先して、今回の大綱だが、支援を受ける国、貧困状態にある人たちにとっての必要性というのは二の次になっているのではないかと言わざるを得ないと私は思う。開発援助の第一の目的である援助対象国の自立的発展の実現と貧困、そして、格差の解消と矛盾した開発は改めていくべきだと指摘しておきたい。


(あばんて記)

2014年9月24日 (水)

【ニュース】 高まる影響住民の声、解決の術(すべ)を知らない政府・企業~最近の報道より

開発プロジェクトによって被害を受ける住民が、メコン河流域の各地で声をあげている。

本流ダム建設に反対するタイとカンボジアの漁民の声は、メコン・ウォッチでも紹介したところだ。

「メコン本流ダム>全てのダム建設の中止を! メコン河の漁師の声」
メコン河開発メールニュース
2014917
http://www.mekongwatch.org/resource/news/20140917_01.html

カンボジア南西部のココン州では、チャイアレン・ダムの建設によって移転を強いられるチョン族の住民が、建設予定地につながる道路を封鎖して反対運動を続けている。

“A Threat to Cambodia’s Sacred Forests”(カンボジアの聖なる森を脅かすもの)
Kalyanee Mam
2014730
http://pulitzercenter.org/reporting/asia-cambodia-areng-valley-cardamom-hydropower-dam

ラオスでも、道路拡張工事によって移転を強いられた家族が、逮捕・拘留されてなお、正当な補償を求めて立退きを拒否している。

“Lao Activist Defies Authorities And Builds Home on Disputed Land”(ラオスの活動家、当局に抵抗して係争地に家屋を建設)
ラジオフリーアジア(RFA
2014826
http://www.rfa.org/english/news/laos/activist-08252014183142.html

住民たちが声をあげ、直接行動に踏み切らざるを得ない背景には、政府や企業が経済的利益を優先して、急速な勢いで住民の土地を奪い取っている現状がある。圧倒的な力の不均衡の中で、意思決定プロセスから排除され、生活の基盤である土地を奪われては、残された手段は声をあげることしかない。それほど住民たちは追いこまれている。


しかし、政府や企業には、その深刻さが理解できない。話合いで解決しようとする能力も気概も不足している。結局、住民たちの声を力でねじ伏せようとする。


5
月、タイ北部ルーイ県で、金鉱山開発に反対して道路封鎖を続ける住民を400名とも云われる武装集団が急襲し、住民側に多くの負傷者が出た。
“Villagers Protesting Thai Gold Mine ‘Attacked by Armed and Masked Men’”(タイの金鉱山で抗議の村人を武装した覆面集団が攻撃)
Saksith SaiyasombutSiam Voices
2014519
http://asiancorrespondent.com/122833/thailand-gold-mine-protest-violence/

カンボジア・コンポンチュナン州では、民間企業の土地買収に対して住民が抵抗しているが、
7月、政府は住民を威圧するために軍隊と武装警官を送り込み、企業に雇われた集団が住民を襲撃しても止めようともしないと云う。
“Lives of Lor Peang Residents in Cambodia Threatened by Private Company and State Forces”(カンボジア・ローぺアン村を脅かす民間企業と国軍)
フォーカス・オン・ザ・グローバル・サウス
http://focusweb.org/content/lives-lor-peang-residents-cambodia-threatened-private-company-and-state-forces

2012
12月、ラオスで起こったソムバット・ソムポン氏誘拐事件については、メコン・ウォッチでも何度か報じてきたが、事件の発端は、穏健な社会活動家であったソムバット氏の言動に政府内の一部勢力が過剰反応したこととの説明がもっとも説得力を持っている。この事件がもともと脆弱だったラオスの市民社会に与えたダメージは大きく、国内で活動する団体・個人は政府批判の言動を過剰なまでに自己規制し、市民社会の自由度においては「ASEANで最悪」と評されるほどになってしまった。
“Laos NGO Restrictions Threaten Development, Say Non-Profit Groups(ラオス政府によるNGO活動への規制は発展を阻む)
South China Morning Post
2014917
http://www.scmp.com/news/asia/article/1594490/laos-ngo-restrictions-threaten-development-say-non-profit-groups

弾圧や暴力は住民の支援者にも及ぶ。

先にあげたカンボジアのチェンアレンダムをめぐっては、
9月、スペイン国籍のNGO関係者をはじめとする11名が、非暴力の抗議行動のさなか当局に逮捕・拘束された。
“Cambodia Arrests 11 in China Dam Protest”(カンボジア政府、中国が建設するダムへの抗議で11人を逮捕)
ボイス・オブ・アメリカ(VOA
2014915
http://www.voanews.com/content/cambodia-arrests-11-in-china-dam-protest/2450828.html

9
9日、カンボジア北西部のウドンメンチェイ州では、サトウキビの大規模植林事業によって立退きを強いられる住民の調査に向かったNGO職員2名が当局に拘束された。うち1名は日米の二重国籍を持つメグ・フカザワという女性だった。カンボジアのNGOが中心となって即座に抗議声明を発した。
“Joint Statement Regarding the Illegal Detention of Equitable Cambodia Staff”(エクィタブル・カンボジア職員の違法な拘束に対する共同声明)
2014911
http://www.equitablecambodia.org/website/index.php?option=view_detail&id=106

政府や企業が、自らの経済的利益を優先する開発事業の進め方を見直して、住民たちの声に真剣に耳を傾けようとするまで、こうした「事件」の発生は止むことがないだろう。

(こうもり記)

※この投稿の内容は、メコン・ウォッチの団体としての見解・立場を代表するものではありません。

2014年7月 3日 (木)

【ニュース】 雨季を迎えて住民の不安は募る~ビルマ・ティラワSEZ移転地の現状

はじめに

5
12日、民主党の石橋通宏参議院議員が、国会の参議院決算委員会で、ティラワ経済特区(SEZ)開発事業によって立退きを余儀なくされた住民の窮状を報告し、この事業を推進する国際協力機構(JICA)に改善を迫った。田中明彦JICA理事長は「改善できるような形に持っていきたい」と答弁したが、一ヶ月半以上が経った今、その約束は果たされたか? 以下、6月末にメコン・ウォッチが現地を訪問した結果を報告する。

指摘された問題


5
12日の決算委で、石橋議員は、特に以下の点を強調した。


1)
水ポンプの水質 「水がひどい。バケツのなかに泥水があるが、これは水ポンプから出てきた水だ。『これを何に使えというのか?』と住民は憤っている」。

2)
居住区の冠水 「舗装されていない。家の部分が道路より低い。雨季になって大変なことになるのではと、すごく心配している。一回の大雨で、水浸しになったそうだ。『雨季になったら、どんなことになるのか?』と住民は懸念している」。

3)
子どもの修学 「6月に学校が再開するが、『学校に通えていない子どもがいる』と私は聞いている」

これに対して、田中
JICA理事長は、「移転先の状況のなかには、大変課題を抱えているものが多い。それは、私も認識している。この点についても、さらにミャンマー政府に必要な働きかけを行ない、改善できるような形に持っていきたい」と答えた。

決算委でのやり取りの詳細は>

http://mekongwatch.cocolog-nifty.com/blog/2014/05/post-2409.html

改善された点


今回、移転地を訪問して住民の話を聞くと、子どもの修学の件は、全員、問題なく近くの学校に通学できているとのこと。立って授業を受けるなどの状況もなく、改善されたようだ。


「水ポンプ」について。以前、茶色の水が出ていた手動水ポンプ
4台を近くの場所に移動し、水源をあらたに掘り終わったところだった。今回は、4台すべてから無色透明の水が出ていた。

ただし、飲料に適しているかなどの検査はなされていないようだ。また、
5人ほど汲み終わると、水が涸れて出なくなっているポンプもあった。ポンプの造りも非常に雑で、すぐに壊れそうな印象を受けた。もう少し状況を見る必要がありそうだ。

201407_thilawa_pump

移動したポンプ

未解決の問題

一方、居住区の冠水は未解決だった。雨の日でもないのに、排水口には水がたまって排水の悪さは明らかだったし、居住区にも水たまりができていた。連日豪雨が降る時期ではないので水たまり程度だったが、
6月中旬に大雨が降った際は、ある家のトイレのタンクから水があふれ出したとのことだった。この家の住人はトラックを呼んで、あふれ出した水を吸い取り、移転地の排水口にそのまま流したそうで、その時に隣人と口論にもなったそうだ。

201407_thilawa_pool

雨天でもないのに居住地に水たまりが

201407_thilawa_drainage

排水口の水位も高い

201407_thilawa_holes

雨の影響もあり、未舗装の道路も数ヶ所に穴が

早急な対応を

このように、目に見える改善点はある。この点は評価したい。しかし、雨季を間近にして、冠水/排水対策には、ますます早急な対応が求められている。

また、より根本的な問題が未解決である点も強調しておきたい。中でも住民があらためて訴えたのが、生計手段の回復である。これまで移転した
68世帯のうち、すでに20世帯ほどが家屋を売却・賃貸などに出し、移転地に住んでいない模様である。住民は、残りの世帯のうち、債務に苦しむ30世帯のリストを作成し、借金を返済したり、小規模ビジネスを始める元金が必要な点を、JICAを交えた協議で訴える準備を進めている。

生計回復が進まなければ、せっかく移転地の住環境が改善されても、住民は就業機会を求めて他のところに行ってしまう。また、生計回復に筋道をつけずに事業の
2000ヘクタール部分での大規模な住民移転に着手すれば、問題の規模が拡大するばかりだ。

(メコン・ウォッチ記、画像も)

2014年6月30日 (月)

【ニュース】 「移転前より生活が苦しくなった」~ADB鉄道改修事業の影響住民の現状

20140601__2
移転後の窮状を語る女性たち

6
1日、メコン・ウォッチは、カンボジアの鉄道改修事業によって移転を余儀なくされた住民を訪問し、現状を聞きとった。この事業には、アジア開発銀行(ADB)が多額の資金を提供している。
事業の概要と問題点は>
http://www.mekongwatch.org/report/cambodia/GMSRailway.html

今回、訪問したのは、首都プノンペンの中心部から約20km離れたところにある移転地だった。住民たちは、すでに四年近く前になる20119月から201111月にかけてここに移転し、現在、100世帯弱が暮らしている。15世帯が聞取りに参加してくれた。

収入が減って、支出は増えた

まず、住民は口をそろえて、「毎日の生活が苦しい」と言った。例えば、移転前と比較すると、収入は、だいたい78割減少したと言う。かつてはプノンペン市内に住んで、バイク・タクシーの運転手や工場労働者、女性の場合は、市場で商売をして現金収入を得ていた。世帯全体で月々150250ドルの収入があったそうだ。ところが、現在は、市の中心部から離れてしまったため、プノンペンでの仕事は続けていけない。近隣の工場で職を得ている者もいるが、短期の仕事であったり、毎日、収入が得られるとも限らない。バイク・タクシーの運転手だった住民は、「バイクを維持していくお金もなく、売りはらってしまい、今は無職だ」と語った。

収入が激減する一方で、支出は増えていると云う。主な理由の一つが交通費である。移転前は職場まで歩いて行けたが、移転後はバイク・タクシーを使わなければならず、往復に一日5ドル以上かかってしまう。プノンペンの市内だとさらに多くのお金がかかり、交通費の負担は増すばかりだと、住民は語った。また、移転の際に家屋を新築するため、1,5002,000ドル程度の借金をしている住民もいた。この借金は高利であるため、利息の支払いだけで毎月150ドルほどもかかり、利子の支払いだけで収入がなくなってしまう。利子すら払えない住民もいる。その結果、借金取りに追われ、いつ土地を差し押さえられるかも知れない。不安を抱えて生活している。

問題の多い補償金の査定

カンボジア政府から補償金をもらったが、少額であったため、借金をしなければ家が建てられない。住民は「そもそも政府が資産を査定する時に不備があった」と指摘している。例えば、ニ階建ての家屋に住んでいたにもかかわらず、「一階建て」と査定されてしまったり、家屋の面積が実際より狭く測定されてしまった。政府の書類には「一階建て」と記載されており、すでに家屋は取り壊されているので証明は難しく、書類だけを見ていると、一階建て分の補償金しかもらえない。「資産の査定方法まで戻って見直す必要がある」と住民は指摘する。

役に立たない職業訓練

生計を回復するためのプログラムもあって、集まってくれた住民の多くが参加した。例えば、養鶏や養豚、キノコを栽培する技術を学ぶ訓練を受けた。しかし、プノンペンの中心部から離れており、この周りにはあまり市場がない。よって、うまく育てられたとしても売れるかどうかわからない。特に豚を育てるとなると、移転地が近隣の土地と密接していて、そもそも養豚のできるスペースが十分にない。また、悪臭などの問題も出てくるため育てられなかった、と住民は説明してくれた。キノコの栽培ですら、十分な場所がない。さらに、もともと工場で働いていた住民が多いため、経験もなく、せっかく習った技術をうまく活かせない。15名の住民の中に、現在も訓練を続けている者はいなかった。

一方で、住民が少しずつお金を貯め合って、必要な時はそこから借りる「貯蓄組合」は、現在でも存続しているらしい。しかし、日々の生活が苦しい住民が多いため、貯蓄に回せるお金もなく、参加できている住民は少ない。皮肉なことに、もっともお金を借りたい人が組合に参加できていない状況だ。

「もとのところに戻るしかない」

集まった住民たちは、「すぐに何らかの対応をしてもらわなければ、ここで生活していけなくなる。土地を差し押さえられ、ここを出ていかなければならなくなる。そうでなくても生活の維持ができないので、部屋を借りるお金すらないけれども、プノンペンの近くに引っ越すことなどを考えている」と述べた。「ADBとも協議が持たれるようだが、7月までになんらかの対応をしてもらえなければ、もと住んでいたところに戻ろうと思っている。そうでなければ、生活をしていけない」ということだった。

以上の内容は、64日、東京で開催された第57NGO・財務省定期協議でメコン・ウォッチから報告し、ADBの最大出資国である日本政府が早期の問題解決に向けて、ADBに強く働きかけてゆくことを求めた。

【解説】 ここで住民が訴えていることは、カンボジアで大規模開発が引き起した住民移転問題に取り組んだ経験のある者にとっては、やるせないほどにおなじみのことばかりだ。補償金が十分にもらえず、生計手段を失って現金収入が激減する。借金で家屋の新築や生活をまかなうが、いずれ生活が破たんする。

この状況を少しでも理解してもらえるために要点を記そう。

カンボジア政府には、住民への補償をきちんと行うだけの能力や動機が不足している。住民補償を担当する部局が財務省の下にあり、補償を少なくする圧力が作用する。政府関係者には、移転住民(特に貧困層)に対して、「補償をもらえるだけありがたいと思え」ぐらいに思っている者もいる。

貧困層ほど、住居と生計が密接に結びついている。住居が職場の近くにあったり、住居の一部で小売販売を営んだりもする。サラリーマン家庭が引っ越しをして通勤時間が長くなるのとは違う(それはそれで、たいへんだが)。通勤費は家計を直撃し、近所の顧客を失う。10数キロ移転してしまうだけで、住民の生計が大打撃を受けるといった調査結果も出ている。だから無理をしてまで、現金収入の機会のある市の中心部に戻ろうとする。

・「補償金が足りないなら、とりあえずそれに見合う家を建てておけばいいのに」と言うなかれ。住居は健康な生活の基盤であり、そう簡単に建て替えもできない。「どうせ建てるなら少しでも大きな家を」と考えるのはきわめて自然である。「家計管理がまずい」と住民を責めるのは本末転倒で、であるならば、移転前に、家計管理や建築計画を助言する仕組みを作っておけばいい。

貧困層の場合、十分な収入や担保がないなどの理由で、市中銀行から融資を受けることが難しい。そうなると、「街金」に頼るしかない。ひと月10%の利子はあたりまえで、利子が20%、30%に及ぶこともある(そして、住民たちは、踏みたおすこともなく、これをまじめに返そうとする)。移転地にもらった土地を担保にした場合は、借金のかたに取り押さえられることになる。そうなれば、住むところ自体を失うことになる。

くり返すが、こんなことは十年前に分かっている。ADBが知らないはずもない。それでいて同じ問題の発生を防ぐことも、簡単に解決することもかなわないのは、ADBが、貧困層の利益とは別の論理で運営されているからだろう。

20140601__3
移転住民の家屋(右側)。左側の大きな建物は一般住民宅。

(こうもり記。画像は、訪問時にメコン・ウォッチが撮影)

※この投稿は、必ずしもメコン・ウォッチの団体としての見解を示すものではありません。

【ニュース】 ビルマ・ティラワSEZ移転住民の来日をめぐる報道

先頃、ビルマ・ティラワ経済特区(SEZ)開発事業で立退きを余儀なくされた住民の代表3名らが来日し、ティラワSEZ開発事業を調査・資金面などで全面的にバックアップしている日本の国際協力機構(JICA)に対して、JICAが「移転後の住民の生活・生計回復」を謳う自らの環境社会配慮ガイドラインに違反しているとして、正式な異議を申立てた(ティラワSEZ開発事業の問題については>http://www.mekongwatch.org/report/burma/thilawa.html

201461日~10日で、この件を取り上げた報道は、以下の通り。

1.日本語

<映像>
JICAに異議申し立て ODAめぐりミャンマー人
共同通信
201462
https://www.youtube.com/watch?v=z32Je3YNcRY&feature=youtube_gdata
http://www.47news.jp/movie/general_national/post_11128/
http://www.47news.jp/smp/movie/general_national/post_11128/
http://nna.jp/free/news/20140603mmk005A_lead.html

ミャンマー工事の立ち退き住民 来日して
JICAに抗議
テレビ朝日
201462
http://news.tv-asahi.co.jp/news_international/articles/000028078.html
http://webnews.asahi.co.jp/ann_i_000028078.html
http://news.home-tv.co.jp/news.php?ymd=2014-06-02&c=4&id=000028078
https://www.youtube.com/watch?v=75RDw66EiN0

<記事>
補償求め、住民がJICAに異議 ミャンマー(地球24時)
朝日新聞デジタル
201463
http://www.asahi.com/articles/DA3S11169699.html

【ティラワ経済特区】に問題勃発 立ち退き住民が抗議のため来日
ミャンマーニュース
201465
http://www.myanmar-news.asia/news_P3RfCWHiA_107.html

2.英語

<映像と記事>
Displaced Thilawa villagers descend on Tokyo
DVB
201466
http://www.dvb.no/dvb-video/displaced-thilawa-villagers-descend-on-tokyo-burma-myanmar-sez/41295

<記事>
JICA said funding Myanmar evictions
Japan Times
201462
http://www.japantimes.co.jp/news/2014/06/02/national/jica-said-funding-myanmar-evictions/

JICA rejects Thilawa allegations
Myanmar Times
201469
http://www.mmtimes.com/index.php/national-news/10635-jica-rejects-thilawa-allegations.html

JICA dismisses accusations of negligence
DVB
2014610
http://www.dvb.no/news/jica-dismisses-accusations-of-negligence-burma-myanmar/41406

3.ビルマ語

<映像>
DVB
201465
http://youtu.be/Hr0PpeYgwPQ

DVB
201469
http://burmese.dvb.no/archives/58220

(こうもり記)

2014年6月29日 (日)

【ニュース】 ADB駐カンボジア事務所前で、移転住民が抗議行動

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現状を説明する移転住民代表。パネルの下部には「ADBのせいで財産を失い、債務を負った」とある。

6
26日、プノンペン市内にあるアジア開発銀行(ADB)駐カンボジア事務所の前で、数百名の住民が抗議行動を行った。各地から集まった住民の大半は、ADBが融資する大メコン圏(GMS)鉄道改修事業によって立退きを余儀なくされた(事業の問題点については>http://www.mekongwatch.org/report/cambodia/GMSRailway.html)。

住民たちは
4年以上にわたって、移転補償がADBの政策要件(「移転後に、移転前の生活水準が悪化してはならない」)を満たしていない点を指摘し、問題の解決を求めてきた。今年131日、ADB理事会は、独立調査委員会の検証をもとに、ようやく、住民が主張する政策違反を認め、二か月で対応策をまとめると発表した(http://www.adb.org/news/cambodia/statement-gms-rehabilitation-railway-cambodia-project-final-report-compliance-review-p

ところが、
ADBが提示した「救済行動計画」は住民の期待を裏切る内容で、なにより131日にADB理事会が下した決定を満たしていなかった。これに加えて、ADBは、住民が再三要求するまで行動計画のドラフトを公開しない、住民との事前協議を約束しながら応じない、住民が行動計画に対して提出した意見書に回答しないなど、手続き上の不備が目に余ることから、626日、住民たちは直接行動に踏み切った。

国内に政治対立を抱えるカンボジアで住民が街頭行動に訴えることには、かなりのリスクが伴う。今回も、地元警察などから陰に陽に、街頭行動への参加を思いとどまらせようとする脅迫や妨害があったと証言する住民もいた。街頭行動の当日も警備の機動隊などが配備されたが、大きな混乱には至らなかった。住民と支援の
NGOが事前に協議を重ね、行動の目的や方法を明確にしていたからである。住民たちの勇気と知恵に敬意を表したい。

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ADBは住民の生計を回復すべき」「ADBは独立調査委(CRPの提案を受け入れるべき」「学校が必要」「病院が必要」などのメッセージを掲げる子どもたち

抗議行動を受けたADBEric Sidgwickカンボジア担当部長は、住民代表7名を事務所内に招き入れ、3時間を超える話合いを行った。そして、7月初旬に、再度住民との協議を設定することに応じたという。今後の展開を注目したい。


なお、日本政府は
ADB最大出資国の一つで、出資比率は総資本の15.6%、議決権数は全加盟国の12.78201212月末)を誇っている(ADB発行「日本とADB」>http://www.adb.org/jp/japan/overview)。日本政府も住民の窮状には多大な責任を負っているわけだが、この点についてはあらためて書きたい。

(こうもり記)

■現地紙報道(英語)

ADB Protest Leads to Meeting, Few ResultsCambodian Daily 2014627日)http://www.cambodiadaily.com/news/adb-protest-lands-meeting-few-results-62593/
Evictees take protest to ADBPhnom Penh Post 2014627日)http://www.phnompenhpost.com/national/evictees-take-protest-adb

(画像提供:Equitable Cambodia。なお、この投稿は、必ずしもメコン・ウォッチの団体としての見解を表すものではありません。)

2014年5月30日 (金)

【ニュース】 メコン河上流/瀾滄江ダム開発の現状と影響

某所で、久しぶりに、中国領内メコン河上流/瀾滄江でのダム開発について話を聞くことができた。以下は、そのまとめ。 中国政府は、メコン河上流域/瀾滄江で、28ヶ所のダム建設を計画し、うち6ヶ所(すべて雲南省内)の建設を終えている。最下流に位置し、支流への魚類の回遊に悪影響を及ぼすことで懸念された孟松(Mensong)ダムは、正式に建設中止となった。6ヶ所のダムの総貯水量は41キロ立方メートルで、調整貯水量(regular storage)は22キロ立方メートルある。
最初の上流ダムであるManwan漫湾)ダム(1995年)とDachaoshan(大朝山)ダムが(2003年)が完成して後、さまざまな影響が顕在化したが、最近になって、巨大な貯水池を備えたXiaowan(小湾)ダム(2010年)とNuozhadu(糯扎渡)ダム(2012年)が完成したことで、さらに大きな影響が現れることが予想される。
6ヶ所のダムが中・下流域に及ぼす影響について、水文、魚類、堆砂の三領域で、内外の入手可能な調査を机上分析したところ、以下のことが分かった。 1)水文 1-1)乾季の水量が増え、(農地となる)河岸の露出面積が減少する一方で、雨季では水量が減り、氾濫原の面積が減少する。 1-2)ダムは乾季でも運転を続けるため、年間最低水位が現在より低くなる。 1-3)メコン河の水位の上昇する時期が遅れ、流量の少ない期間が長くなる。この傾向は、雨量の少ない年にとりわけ顕著となる。 1-4)ダムの貯水によって、乾季の終わりと雨季の初めに河の水量が減る。 1-5)XiaowanダムとNuozhaduダムの貯水によって、水温の低下が顕在化し、水質にも影響を及ぼす可能性がある。 1-6)現在までに、下流域での水質汚染は確認されていないが、今後、富栄養化や重金属汚染が問題となる可能性がある。 2)魚類 2-1)61種の魚類が、メコン河上・下両流域で発見されているが、ベースラインデータがないため、完成した6ヶ所の上流ダムが、下流域と上流域間を回遊する魚類に及ぼす影響を評価するのはきわめて難しい。ただ、Pangasius、Tor sinensis、Wallago attu、Hemibagrus wychioidesの下流域での生息状態について監視する必要がある。 2-2)水温と水位変動に生じた変化によって、藻の繁殖や魚類の数・生態に変化が生じる可能性がある。 2-3)中国国境付近では、貯水池から逃げた外来種の魚類が増加する可能性がある。 3)堆砂 3-1)下流への堆砂(年間8千万トン)の約50%が上流を起点としているが、Manwanダムによって、その量が平均で35%減少した。 3-2)ダムが堆砂をせき止めるため、下流で河岸崩落が発生するとともに、水中や氾濫原での栄養分が低下する。 3-3)栄養分の低下は、生物多様性の保全にも影響を及ぼすが、その影響は長期にわたるまで顕在化しない。 3-46ヶ所のダムの運転によって、下流への堆砂は減少し、その影響は下流になればなるほど大きくする。
中国政府が2013年に承認した第12次五ヶ年計画では、28ヶ所のうち、さらに10ヶ所でダム建設を開始するという。一方で、中には、地元住民の抵抗で正式に中止となった建設計画もある。
また、最下流に位置するベトナム政府は、現在、メコン河本流ダム開発のデルタ地帯への影響を調べる「デルタ調査」(2014年末完了予定)を実施中で、この調査は、上流ダム/瀾滄江ダム開発の影響も視野に入れている。 メコン河上流/瀾滄江ダム開発に対して、これから懸念や批判の声が強まる可能性がある。
(こうもり記)
※この投稿は、メコン・ウォッチの団体としての見解を示すものではありません。

2014年5月19日 (月)

【ニュース】 ビルマ・ティラワ経済特区開発の住民移転問題が国会で審議に

日本の政府開発援助(ODA)によって建設が進むビルマ/ミャンマーのティラワ経済特区(SEZ)開発事業ですが、移転を余儀なくされ、貧困化の危機に直面する住民たちが再三にわたって面談を求めているにもかかわらず、JICA(国際協力機構)は応じようとしません。

5月初旬に現地を視察した民主党の石橋通宏議員が、5月12日、参議院決算委員会で、日本政府/JICAに、この件を問い質しました。決算委員会での質疑を録画で視聴して作成した記録を以下に紹介します。

録画は、以下のサイトで閲覧可能です。
http://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/index.php

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参議院議員 決算委員会
2014512
石橋通宏 議員(民主党・新緑風会)
21:0040:00

石橋議員:

・連休中に、ティラワSEZの強制・非自発的移転の対象となった住民の生活環境を見に行った。移転地の住民と約二時間話した。
・住民が一番訴えていたのは、「JICAがなぜ書簡に回答してくれないのか?」ということ。資料にあるとおり、過去これだけの書簡がJICA理事長宛てに住民から出されている。いっこうに書簡による回答がない。なぜ、きちんとした対応がなされていないのか?

田中JICA理事長:

JICA理事長宛てに書簡が六回送付されているのは、そのとおり。
JICA事務所からは、書簡をもらうたびに口頭では対応している。
・書簡に対して、どのように対応するかは、私たちが国際協力を行なうとき、当該国政府が現地ステークホルダーとの協議を主体的に行なうという原則。また、当該国政府が主体となって現地ステークホルダーと行なう内容がより適切なものになることを重視しており、現在の段階では、口頭での対応にとどまっている。
・このような状況であることは、ミャンマー政府にも伝えている。ミャンマー政府もまた、「直接住民との対話の用意がある」と言っているので、JICAが何でも前に出てという形ではなく、ミャンマー政府との対話を見守っている。
JICA専門家を派遣しているので、専門家がミャンマー政府に働きかけることによって、適切な対話が行なわれるということを重視してきたが、今後、ミャンマー政府とも相談して、対話の可能性も含めて、対応を検討していきたい。

石橋議員:

・資料でも示したが、書簡は昨年からずっと出されている。直近では、430日にも書簡が出されている。移転は昨年の秋から段階的に進められているので、最初に移転した住民は半年近く、移転地に住んでいる。しかし、ミャンマー政府にいくら言っても何の対応もされていない。だから、JICAに、日本に、「日本だったら何とかしてくれる」という思いで、書簡を出しているが、結局、何の返事もない。
・理事長は今、「その都度、電話で回答があった」と言ったが、これは事実か? 住民はちゃんと記録をしている。電話でJICAから回答めいたものがあったのは、23日と428日の二回だけ。それも、住民側からJICAヤンゴン事務所に電話をし、「書簡に対する返事はないのか?」という問い合わせに対し、どなたかわからないが、事務所の女性が回答したとのこと。これは、JICAとしての責任ある回答なのか?

・資料1に、JICA環境社会配慮ガイドラインを参考までに改めて配布した。ガイドラインには、「ステークホルダーの参加を求める。ステークホルダーの意見を意思決定に十分反映する。ステークホルダーからの指摘があった場合には回答する」とあるが、これまで書簡に対する真摯ある回答がなされておらず、電話も事務所のどういう立場の方かわからない方が、電話があったときに回答を二回。住民は、JICAと昨年1015日に一度会合を持ったが、移転後は一切会合を持ってもらえないので、「ぜひ会合を持ってほしい。われわれの声を聞いてほしい」と、これにも全然応えてもらえない。これはガイドラインに違反しているのではないか?

田中理事長:

JICAからの電話回答は、議員が仰るような形で行なわれている。それに加えてもう一回やっている。
・「JICA環境社会配慮ガイドラインにそっているか?」ということだが、二つの側面がある。ひとつは、Class A地域の移転住民に対する対応として、ミャンマー政府のとった対応がガイドラインに適合しているかという点は、JICAは、これは適合する形で行なわれたと思っている。稲作農家、野菜農家への補償年数の増加や、移転地の区画面積、その他いくつかのことをしている。
・それに加え、移転地の住民との対話については、JICA専門家が訪問し、対話を継続していると認識している。ただ、議員が現地を訪問し、そうした発言をされているので、JICAとしても、さらにいっそう丁寧な対応をしなければならないと思っている。

石橋議員:

・理事長、質問に対して、ちゃんと答弁をもらっていない。これだけ累次にわたる書簡がある。現地語と翻訳版を全部もらってきた。本当に切実な訴えがこの中に書かれている。これに対し、全然回答がなされていないことは本当に問題だと思う。くりかえし言うが、JICAヤンゴン事務所のどなたかわからない女性の方が、対応したときに電話で答えた。それだけだ。これがJICAの回答なのか? それについて、「ガイドラインに照らして、どうか?」と質問した。ちゃんとした回答をもらっていないが、それがJICAの真摯ある回答だとすれば、これは大問題。
JICA専門家が現地を訪問しているということだったが、私が訪問したときにも話が出てくる。(この場では)固有名詞は言わないが、「JICAの○○さんが来た」と。来るたびに、住民は現地の問題を話していると。しかし、「何も起こらない」と住民は言っている。理事長、これが実態。そこまで、お聞きになっているかわからないが。JICAの人に訴えるのだが、現地で何も起こらないから、書簡も出すんだけれども、何も返事は来ない。一体どういうことなのか?

・今日は全部出せないので、興味のある人は別途見せるが、写真を一部見せたい。移転前の様子。すでに移転した住民のところは整地が始まっているので、これは現在。次に、移転対象になる2,000ヘクタールの住居。このように、家は確かに古いが、非常にスペースのある住環境で暮らしている。移転後は、私も百聞は一見に如かずで、現地に行ってみてよくわかった。狭い。家が密集している。農業はできない。家畜も持って行けない。家畜によって日々の生計を立てている方も全部家畜を処分せざるを得ない状況が見てとれる。
・資料5の右上の写真だが、水がひどい。井戸があるが、井戸に大量に藻が発生している。バケツのなかに泥水があるが、これは水ポンプから出てきた水だ。何の操作もない。「これを何に使えというのか?」と住民は憤っている。

・今日は補償額の中身には突っ込まないが、下の写真にある家の補償額は250万チャットだそうだが、それによって、(ミャンマー)政府が建てると。こういう家を建ててくれるそうだ。家の中に私も入ってみたが、すでに何ヶ月かで、隙間だらけで、大変杜撰な建築。土台の金具が外れたり、ひびが入ったりしている。半年経たないうちに、こういう状況。多くの住民は、この補償額で政府が作ったら、こういうことになることが分かっているので、自分たちで補償のなかから補填して、自分たちで家を建てている。だから、補償額は全然十分でないということのようだ。

・左下の写真、移転後の状況だが、舗装されていない。また、家の部分が、道路より低い。これからミャンマーは雨季になる。雨季になって大変なことになるのではないかと、すごく心配している。実際、今朝届いた写真で、週末に大雨が降ったそうだ。大雨が降ったら、すでにその一回の大雨で、水浸しになったそうだ。これは「雨季になったら、どんなことになるのか?」と住民は懸念している。

・学校の問題もしかり。学校の問題も「JICA専門家に伝えている」と言っていたが、どこまで把握しているのか? 6月に学校が再開するが、「学校に通えていない子どもがいる」と私は聞いている。
・こういった問題に対し、JICAはミャンマー政府が対応すると、しかし、対応されていないので、この問題が今なお残っていて、住民はJICAに対して「何とか対応してほしい」と書簡を送っているのではないか? 理事長、これは責任をもって早急に対応いただきたい。それを約束していただきたい。

田中理事長:

・今、議員が仰ったように、移転先の状況のなかには、大変課題を抱えているものが多い。それは、私も認識している。この点についても、さらにミャンマー政府に必要な働きかけを行ない、改善できるような形に持っていきたい。
・それから、先ほどからの対話の在り方についても、繰り返しになるが、ミャンマー政府の主体性とJICAの要求をうまく合致させるような形で、望ましい対話の在り方、それは書簡も含めてだが、そういう形を含めて追求していきたい。

石橋議員:

・ガイドラインに沿って、きちんと進められているのかどうか? 私はぜひ第三者によるモニタリングを実施すべきと思うが、第三者によるモニタリングを実施することを約束してもらえないか? ガイドラインに則り、ステークホルダーの参加、住民との対話、住民への真摯ある回答、こういうことを含めて、きちんと行なわれているのかどうか、第三者によるモニタリングを要求したいが、いかがか?

田中理事長:

・ガイドラインに沿っているかは、ミャンマー政府が第三者によるモニタリングを実施すると承知している。

石橋議員:

・住民はこの件について「まったく知らない」と言っている。第三者モニタリングがいくら行なわれようとも、当事者たる住民の皆さんが含まれていなかったら、まったく意味がないので、もしミャンマー政府がやるということであれば、JICAもしっかり関与して、勝手に政府が第三者モニタリングをやるのではなく、きちんと住民の参加に基づくモニタリングが行なわれるように確保するようお願いしたい。

・外務大臣、今、質疑を聞いていただいたと思うが、これから次なる2,000ヘクタールで、より多くの農民、住民が非自発的住民移転の対象となる。ここに協議が移ってくる。今回、私はそこの住民とも対話したが、すでにそこの住民は、今のClass Aの状況を見ているので、本当に心配している。
・例えば、まだ農民が農業をしているにもかかわらず、二年前に農業の灌漑用水が止められ、施設が取っ払われてしまった。乾季による農業ができなくなり、収入が半減している。また、先日、427日に行なわれた最初の住民協議では、現地の農業省は、住民に「農業を停止せよ」という指示を出した。まだ移転が数年先になるかもわからないのに、今年「もう農業を停止せよ」と指示を出している。これは大変な問題。こういった、これからの協議に向け、今、JICA理事長は「しっかりやる」と答弁したが、改めて、外務省としても責任をもって、住民、ステークホルダーの参加を真摯にしっかりとやっていくことを確約していただきたいが、いかがか?

岸田外務大臣:

・ティラワSEZ開発事業は、海外からの直接投資を通じて、ミャンマー国の持続的経済成長を実現し、雇用創出を通じて貧困削減にもつなげていく。こういった意味で大変有意義な事業であると認識している。
・そして、この事業を進めるにあたっては、指摘のとおり、住民移転等が生じる場合には、移転後の生計回復支援も含めて、住民の意思等に十分配慮した適切な措置が確保されることが大変重要だと認識している。
・そして、JICAの対応については、田中理事長から説明があったとおり、丁寧にしっかりと進めてもらわなくてはならないと考えているが、我が国政府としても、ミャンマー政府に対し、国際基準に基づいた対応を住民移転においても行なうよう働きかけていきたい。世銀のガイドラインなど、国際的な基準に基づいて、しっかりとミャンマー政府に対応してもらうべく、日本政府としても、直接働きかけを行なっていきたい。

石橋議員:

・時間が来たので、これで終わるが、モザンビークもミャンマーも同じ話。ステークホルダー/市民社会との対話がしっかり行なわれていなければ、正しいODAが推進できない。大臣に答弁いただいたように、政府としても責任をもって対応いただきたい。

(土川)

一点だけ突っ込ませていただくと、岸田大臣、「世銀のガイドラインなど、国際的な基準に基づいて、しっかりとミャンマー政府に対応してもらう」と言ってしまうと、いかにもJICAのガイドラインではこと足りないようで。JICAのガイドラインも世銀の基準に準拠しているわけですし、ここは胸を張って、「JICAのガイドラインに基づいて、しっかりとミャンマー政府に対応してもらう」と言うべきところでした。

(こうもり付記)

※この投稿は、メコン・ウォッチの団体としての見解を示すものではありません。

2014年5月 6日 (火)

【ニュース/コメント】 「MRCサミット」が終わって(2)予習してきたベトナム、シカトしたラオス

45日、ベトナム・ホーチミン市で開催された第2回メコン河委員会首脳会議(MRCサミット)で四か国の代表が読み上げた声明は、MRCのサイトで閲覧可能になっている(http://www.mrcsummit.org/

各国の声明にコメントしてみたい。

まず、カンボジアのフン・セン首相の声明は、全体に、今回の会議のキーワードである「水資源・エネルギー・食料の安全保障」や「気候変動」をちりばめて、あたりさわりのない内容にまとめつつ、最後に、メコン河本流ダム計画の今後に関わる「理事会調査」への期待と協力を表明している(
24段、31段)。
http://www.mrcsummit.org/download/Cambodia-statement.pdf

次に、ラオスのトンシン・タンマヴォン
首相は、メコン河を「友好と交流の河」としつつ、「国家主権の相互尊重」(”mutual respect of sovereignty”)を持ちだした。曰く、「だからこそ、MRCは、加盟四か国に、相互利益および国家主権の相互尊重の精神の下、持続可能なやり方で、メコン河流域を適正に維持・管理しつつ、開発協力を強化するよう促してきた」(”Therefore, the MRC has encouraged its four member countries enhance development cooperation, properly manage and maintain the Mekong river basin in a sustainable manner in the spirit of mutual respect of sovereignty and for mutual benefits.”)。
http://www.mrcsummit.org/download/Laos-PM-Statement-final.pdf

そして、
2010年以降、サイヤブリダムやドンサホンダムの建設推進によって、流域全体を騒がせておきながら、「総じて、私には、メコン河流域における開発活動は、いかなる緊張や衝突を生むこともなく、適正に管理されてきたように見える。実際、これは、メコン河を平和・友好・協力の河とするために、私たちが引き続き大切にすべき教訓である」(In general, I have observed that development activities in the Mekong river basin over have been properly managed without any tension and confrontation. Indeed, these are lessons learned that we should continue to cherish in order to make the Mekong river a river of peace, friendship and cooperation.”)(212段)と言ってみせた。

さらに、「実のところ、開発は、環境に対して多少なりとも負の影響をもたらしてきたのだ。気候変動や環境問題の影響への対応は、単に開発事業を中止したり、最小化することにかかっているのではない」(
”Indeed, development process has more or less brought about adverse impact on environment. To address the impact of climate change and environmental challenges does not depend merely on whether we should suspend or minimize development activities.”)(25段)と、一方的に進める本流開発を正当化した。声明中、「理事会調査」への言及はおろか、「水力発電」や「ダム」といった表現さえ見あたらない。木で鼻を括るとは、こういう物言いを指すのだろう。

タイは、国内の政情が不安定なため、インラック・チナワット首相が出席できなかった。これだけでも外交上は失点なのだろうが、大臣クラスすら送りだすことができず、外務省のシハサック・プオンケットケオ次官(
Permanent Secretary)が声明を読み上げた。次官は、中国とビルマ(ミャンマー)が今回の会議に大臣クラスを出席させたことを、「両国がMRC加盟国とのパートナーシップに重きを置いていることを示している」(”underline the importance that both countries have attached to their partnership with the MRC countries”)と称えたが(22段)、出席者の失笑を買わなかったのだろうか?
http://www.mrcsummit.org/download/Thailand-statement-as-delivered.pdf

タイも、「水力発電」や「ダム」への直接的な言及は避けているが、加盟国内での「基盤整備事業」(
”infrastructure projects”)が他国に及ぼす影響を「心にかけるべきだ」(”mindful”)としている(35段)。これが、ラオスの本流ダム開発を示していることは、直後で「理事会調査」の早期実施を促している点からも、明白である(367段)。

ベトナムは、今回のサミットのホスト国であり、グエン・タン・ズン首相が読み上げた声明の作成には、かなりの精力を費やした跡がうかがえる。まず、冒頭で、
メコン河の水量の減少傾向を、加盟各国での実例をあげながら紹介している(23段)。メコン河の水不足で話を切り出したのに、途中で、2011年のタイ・チャオプラヤ河の氾濫に話が移り、そうかと思えば、カンボジアの国家の象徴トンレサップ湖に触れないなど、いささかちぐはぐだが、メコン河の水問題に対処するには、まず流域国間での協力が必要である、とうまく結論づけている。「流域国間の協力」と言う際に、「上流も下流も」(”both upper and lower”)とあえて付け加えたのは、中国を意識してのことかも知れない(24段)。
http://www.mrcsummit.org/download/VietNam-Statement.pd

ベトナムは、声明の中で、五つの提案をしているが、三番目で、「本流水力発電事業の影響を含めた、メコン河の持続的な開発と管理に関する
MRC理事会調査」(”the MRC Council Study on the sustainable management and development of the Mekong River, including the impacts of mainstream hydropower”)をできるだけ早期に実施・完了することを強調している(35段)。また、四番目の提案では、「水資源の持続可能な開発と公正で理に適った活用を進めるには、引き続き、地域や国際レベルで法の枠組みを結集する必要がある(”It is also necessary to continue consolidating the regional and international legal frameworks to promote the equitable and reasonable utilization and sustainable development of water resources.”)(36段)と述べ、後段で、ベトナムが、「1997年国際連合・国際水路の非航行的利用の法に関する条約」(”1997 United Nations Convention on the Law of the Non-Navigational Uses of International Watercourses”)への参加準備を進めていることに触れている(45段)。

ご愛嬌は、フン・セン首相の声明の中の一節
Mekong River will be at risk of irreversible change if development projects are undertaken with consultation, cooperation, proper planning and management, and joint decision making in cross-sectoral context and in the spirit of one Mekong River.”で、このまま日本語にすると、「一つのメコン河の精神の下、セクターを横断した協調、適切な計画や管理、共同の意思決定を行うと、メコン河は取り返しのつかない変化に見舞われる危険に直面している」(21段)となる。文中の”…with consultation…”のくだりは、”…withOUT consultation…”(「協調がなければ、メコン河は取り返しのつかない変化に見舞われる危険に直面している」)の間違いだろう。フン・セン首相が声明を英語で読み上げたのかどうか知らない。MRCの「共通語」が英語である点には忸怩たる思いもある。にしても、どこかでチェックが入らなかったのだろうか?

注1 メディア向けの式次第によると、登壇の順番は、ホスト国ベトナムを筆頭に、以下、国名のアルファベット順で、カンボジア、ラオス、タイとなっている。また、式次第では、タイからスラポン・トウィチャクチャイクン副首相兼外務大臣が出席することになっていた。
http://www.mrcsummit.org/download/media-info-package-2nd-Summit_English.pdf

注2 「国際水路の非航行的利用の法に関する条約」 水資源への需要と開発の影響が顕在化する中で、国境を超える水路(地表と地下を含む)の使用と保全を目的に
1997年、国連総会が採択した文書。発効には35か国が批准しなければならず、現在、34か国が批准している(Convention on the Law of the Non-Navigational Uses of International Watercourses” Wikipedia
http://en.wikipedia.org/wiki/Convention_on_the_Law_of_the_Non-Navigational_Uses_of_International_Watercourses#cite_note-1

(こうもり記)

この投稿は、必ずしも、メコン・ウォッチの団体としての見解を代表するものではありません。

2014年4月24日 (木)

【ニュース/コメント】 「MRCサミット」が終わって(1)「理事会調査」への期待

45日、ベトナム・ホーチミン市で、第2回メコン河委員会首脳会議(MRCサミット)が開催された(MRCのサミット専用ウェブ:http://www.mrcsummit.org/)。

メコン河本流ダムの建設に反対する市民団体は(メコン・ウォッチも含めて)、
MRC加盟四か国(ラオス、タイ、カンボジア、ベトナム)の首脳に、「流域600万人の食糧安全保障の根幹を成すメコン河の自然資源の保全のために一致協力して、サミットの場で、本流ダムの建設を即時中止する政治的意思を示すべきである」と訴えたが、公式声明や報道に目を通す限りでは、そうした英断は話題になった形跡すらない。

公式声明で目を引くのは、まず、サミットのまとめとして発せられた「ホーチミン市宣言」で、当面の優先課題の筆頭に、「理事会調査」の早急な実施がうたわれている点だ。その部分(宣言
3ページ)を日本語にすると、「流域の持続可能な開発に資する助言や提言を作成する目的で、ベトナムが主導するメコンデルタ調査と連携しつつ、メコン河の時速可能な管理と開発に関して、本流ダム事業の影響も含めたMRC理事会の調査を迅速に実施する」となる。
http://www.mrcsummit.org/download/HCMC-Declaration-V5-4Apr2014.pdf

「理事会調査」(
Council Study)とは、初の下流本流ダムとなるサイヤブリダムをめぐって、四か国政府が協議を続けていた201112月、MRC理事会が実施に合意した調査である。
(「メコン河委員会が追加調査の必要性で合意」開発メールニュース2011129日)
http://www.mekongwatch.org/resource/news/20111209_01.html

「理事会調査」の決定には、一定の注目が集まった。
MRCの「開発パートナー」(ドナー国政府や国際機関など)が同時に発した声明の文言、「総合的な調査がサイヤブリダムをはじめとするメコン下流本流ダム計画を進めるべきか否かを判断する手続きに有用になるだろう」(声明第4段落)を合わせ読めば、この調査が行われるまで、サイヤブリダムをめぐる決定は下さない。つまり建設は延期することになる。理事会調査の資金源として、日本政府が指名された点も注目に値した。
(「メコン河委員会は評議会での合意を意味あるものにできるか?」開発メールニュース20111213日)
http://www.mekongwatch.org/resource/news/20111213_01.html

ところが、ラオス政府は、一方的にサイヤブリダムの建設を進め、他方で、理事会調査は内容がまとまらず、まったく進展しなかった。日本政府も、
MRCに別の事業で提供した資金が予定通り消化されておらず、新規の資金提供に難を示したようである。そして、またたく間に二年が過ぎ、昨年(2013年)10月頃、複数の事情通から異口同音に、「理事会調査は時宜を逸した」「理事会調査に期待する関係者はいない」との観測が伝わってきた。

いまだに調査開始の兆しすら見えてこなかった。「さもありなん」と、うなづいていると、ほどなく、この観測に対する反証が現れた。約二か月後の
1214日、東京で日ASEAN特別首脳会議と合わせて開催された第5回日本・メコン地域諸国首脳会議が、「改訂版『東京戦略2012』実現のための日メコン行動計画」を発したが、その中に、「日本及びメコン地域諸国は、水力発電案件による影響を含む、メコン河の持続可能な管理と開発に関する調査についての協力を行う」とある。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/page23_000703.html

「メコン行動計画」の基になった「『東京戦略
2012』の中間報告」(1214日付)では、「首脳は、メコン河の水及び関連資源の持続的管理・開発の死活的な重要性を再確認するとともに、地域及び国際機関、特にメコン河委員会(MRC)との協力を継続する。この点、MRCは、メコン河主流における水力発電事業の影響も含めたメコン河の持続的管理・開発に関する研究を迅速に進めることが奨励された」とあり、「迅速に進める」の表現が加わっている。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/page23_000702.html


「メコン河の持続可能な管理と開発に関する調査」とは、「理事会調査」にほかならず、
ホーチミン市宣言のくだりは、メコン行動計画を踏襲している。懐疑的な事情通は、「宣言を起草する際に、簡単に合意できるものがほかになかったからではないか」と依然として悲観的な観測を述べる。たしかに、昨年12月にメコン行動計画で「迅速に進める」と言っておきながら、三か月後のホーチミン市宣言でも同じことを言っている。

一方で、理事会の雰囲気を知り得た別の事情通は、「ベトナム政府は(理事会調査に対して)真剣だと思う」との見解を聞かせてくれた。「ベトナムが真剣」とは興味深い。ホーチミン市宣言が理事会調査と併記する「メコンデルタ調査」は、サイヤブリダムの建設が強行される中で、ベトナムが独自に呼びかけた行動で、他の三か国の協力も取りつけている。理事会調査には懐疑的な事情通も、メコンデルタ調査には一貫して期待を寄せている。ベトナム政府がメコンデルタ調査を補強する目的で理事会調査に取り組むのであれば、理事会調査の結果が、本流ダム建設中止の流れを引き寄せる可能性はあるだろう。

(こうもり記)

※この投稿は、必ずしも、メコン・ウォッチの団体としての見解を代表するものではありません。

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